市川裕司 -VISIBLE PART- (ART FAIR TOKYO 2019)

2019年3月7日(木)-3月10日(日)

起源から世界へ

 

 市川裕司はキャリアの出発点から作品を通して「世界」を表現しようと試みてきた。初期の代表的なシリーズ《genetic》は、透明なアクリル板を主な支持体に、白色の岩絵具である放解末を用いて描写し、ひとところに固定することなく動き続ける生命、その起源を描こうとしたものである。そして五島記念文化財団海外研修員としてドイツへの滞在を経て到達した《世界樹》のシリーズは、果実のりんごという鑑賞者の立場によって多岐にわたる文脈を見出すことのできるモチーフを通し、この世界との関わりをあらわしたものだ。ひとつの生命からそれらが構成する巨大な世界の総体へと、市川はその視界を拡大させてきたと言える。
 今回の《visible part》は、「世界樹」同様りんごをモチーフにしながらも、平面ではなく立体で、そして単色ではなく色彩を付加することで、現代におけるひとのさまざまな生き方、その裏表を表現したものだという。作品はこれまでの作品のテーマをさらに深めるものであると同時に、日本画の技法を用いながらその色彩は単色が中心だった市川の視覚表現を押し広げるものとしても興味深い。そして天球を模した球体にりんごの箔押しを行った《天球儀Ⅱ》は、まさしくこの世界=地球全体をひとつのモチーフによって把握するかのようなきわめて野心的作品である。マクロからミクロまで、視点の鮮やかな移動によってわたしたちの世界をあざやかに描き出す、市川裕司の作品に注目したい。

 

                                         

小金沢智(太田市美術館・図書館学芸員)

市川裕司