木下晋展 —いのちに触れる—

2020年11月21日(土)-11月28日(土)

鉛筆画のサンクチュアリ

 

建畠晢

 

 

 

究極的な写実とは、いま目の前にあるものの本質に迫ること、命そのものに触れる瞬間をもたらすことではなかろうか。木下晋は他に類例のない表現力をもって鉛筆を走らせるが、彼の関心は再現的な描写にあるわけではない。彼はパーキンソン病で硬直した自らの妻を描くが、その麗しい陰影は、澄んだ透明感のある光であり、存在の本質だけを突き詰めようとする画家の眼差しが浮か浮かび上らせた聖なる光景である。
 木下は妻をどんどん魅力的になっていく理想のモデルだという。裸の彼女が衣服を身につける後ろ姿を描いた一見、グロテスクな作品は、語義矛盾を承知でいうのだが、画家なる者の業の崇高さを感じさせずにはおかない。その妻が語った「まるでとり憑かれたように、この人は重い鎖を足につけたままに光に向かって歩いていく」という言葉は、私たちを深い感動に誘う。鉛筆画が向かう極限的なサンクチュアリ!

木下晋